芥川龍之介の短編小説 奇怪な再会?

日清戦争の勝利に湧く日本の明治28年の頃の話。

東京の陸軍一等計理部将校の牧野は支那人の女で山東省の軍港の傍にあった

妓館の娼婦であった恵蓮(けいれん)を身請け同様にして日本へ連れて来て

妾として東京市の本所に住まわせる。名を、お蓮と呼ぶ。

 

周りの近所では、テッキリ、日本人のお妾さんだとばかり思っていたのだが?

この女には金という好いた男が居たらしいのだが、その男の生死は判らない。

お蓮は牧野の御新造との軋轢と行方不明になった昔の情人の金の面影に苛まれる

毎日。そんな折、白い子犬がお蓮の妾の家に迷い込む。お蓮は子犬を溺愛して

日々の憂さを晴らす。お蓮の住む妾の家には炊事をするお婆が雇われている。

ある日、子犬とお蓮が話し込む姿を垣間見ると、まるで子犬を昔の情人の金とでも

語り合う様な有様であった。

子犬はお蓮にとっては、金以外には考えらない存在っだったが、その犬はやがて

病死、二度目の犬も白い子犬だった。その犬との出会いも縁日であった。

 

お婆から聞いたお蓮と白い子犬の関係を訝った牧野は、お蓮が縁日に出掛ける

跡を着けていった。そして、お蓮が白い子犬を抱いて楽しそうに語らうのを

見てしまった。お蓮はその後、脳病院へ強制入院させられていた。

お蓮は、病院でも支那服を脱がず、白い犬を金さんと呼びながら発狂した。

その犬がどうなったか?、また金という男の消息は?

多分、犬は牧野に殺されたのかも?

 

さて、この話が意味する事とは?ズバリ 輪廻転生である。

 

人の魂は三界を彷徨って、輪廻の輪からは逃れられない宿命を背負う。

 

三界とは欲界(人間界)色界、無色界を指し、欲界とは六道とも呼ばれる世界、

色界とは欲を離れる世界だが人間の持つ欲望や、様々の煩悩を取り去った世界だが

物質には拘りを持つ世界。無色界は精神世界のみある。禅定の世界

 

お蓮の情人の金は、死んでも魂が子犬に転生して、恵蓮を慕って欲界を彷徨って

いるのである。

 人の欲望で、最も強烈なもの、最も押さえ難いもの、それは愛欲であるし、

性欲でもある。

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 米国と戦った第二次世界大戦の前夜、多くの日本人が海を渡り満州へ向かった。

ある者は新天地を求めて開拓団へ、ある者は鉄道敷設の建設技師や労働者として、

ある者は軍の施設の建設に従事する技術者として、多くの日本人が大陸で働いていた。

そんな人々を客として接待したのが、支那の女達だ。古い写真を見れば支那服を着た

大陸の芸妓が日本のお客と記念撮影した姿が写っている。そこにはどんな世界が

あったのかは?今の若い世代には知る由ものない。

送り出した日本の妻達の嘆きは?浮気をするのではないか?現地の女と所帯を

持ってしまうかもしれない、そんな不安を持って、妻は亭主を送り出していた

のだろう??